毎日ボーナスタイム vol.5<みうらかな>「歩きながら俳句を考えたことがあるか」 私はある。仕事で頭を抱えたときのあのどうしようもない脳の酸欠や、天気のいい昼間の散歩。大事に育てている植物への水やりの時間など。だがしかし、いつも当たり前のように季語を忘れてしまうし実は字余りもしている。結局、全然俳句とは呼べない語呂がいいだけの文章になるのだった。●仕事とは とんかつよりも 大事かな(これは孤独のグルメを見た翌日どうしてもとんかつが食べたくなったとき考えたもの)●新芽ちゃん できればそのまま 葉を増やせ(元気のないポトスに水やりしていたときのもの、後半命令形)●家帰ろ 早く煮たいな 黒豆を(恋人のお父さんに大粒の黒豆をいただいたとき、うれしくて考えた)●家帰ろ 早くゆでたい ...20Jun2018vol.6毎日ボーナスタイム
毎日ボーナスタイム vol.4<みうらかな>「とりとめもない話」 四月、窓をあけると気持ちのいい風が入るようになった。新生活が始まってからずっと大切に育ててきたブラジリアンエーデルワイスにふわふわの新芽がふたつも出た。生まれてはじめてふきのとうの天ぷらを食べた。とても美味しかった。 *** 私は普段、日記をつけない。頭にうかんだ素晴らしいことを言葉になおすのがものすごく苦手だからである。 社会人として働きはじめた当初、ビシネスメールが苦手すぎてひどい文を打ち、先輩にキレられたことがある。翌日、すぐに古本屋さんでメールの書き方と敬語の使い方の本を三冊買った。それをバカの一つ覚えのように、マーカーをひいては何度も読み返した。丁寧に教えてくれる先輩を二度とあんな顔で怒ら...16May2018vol.5毎日ボーナスタイム
毎日ボーナスタイム vol.3<みうらかな> 二月になる。「ドラゴンフルーツ」という斬新なタイトルのZINE に、「毎日ボーナスタイム」という何ともテキトーでふぬけた連載を持ちはじめて三ヶ月が経った(内容はいたって真面目である)。 執筆の相談を受けたとき、小野さんからの指令が「ライブハウスについて書いてほしい」だったこともあり、前回まではライブハウスで働くことになったきっかけなど、基本的に自分にまつわるあれこれを書いてきた。けれど自己紹介が苦手で、しかも普段読書をまったくしない私にとって、" 己と向き合う" という底知れぬ気まずさとの戦いはかなり深刻なものであった。 そうやって何度も吐きそうになりながら、夜中の自由が丘のベンチで書き上げた前作を読み返すと、やっぱりひどいな、と...21Mar2018vol.3毎日ボーナスタイム
毎日ボーナスタイム vol.2<みうらかな> 十六歳、冬休みのこと。自分の中のあまのじゃくがずっとストップをかけていた「あの頃を思い出す」という作業を、せっかくだからこのコラムを通して実行してみようと思う。七年も前のことだなんて未だに信じられないのだけれど、たしかにあの時、東日本大震災の時、私は福島県いわき市の高校一年生だった。幼いころから絵を描くことやものづくりが好きで、必然的に高校も芸術に特化しているところを選んだ。将来は美術に携わる仕事につくのだと思っていたし、それ以外の未来は想像できなかったと思う。 単位制の学校だったので時間割は自分で組み、国語と数学と英語以外はすべて実用的な、というか、頭を使わなくてもいいものばかりを選んだ( 服を作ったり着付けをしたりダンスを踊っ...28Feb2018vol.2毎日ボーナスタイム
毎日ボーナスタイム vol.1<みうらかな> 「贅沢」という言葉を聞いた時に、いちばん最初に何を思い浮かべるだろうか。鉄板でジュウジュウ焼く大きな牛肉、まんまるのお月さま、羽毛のお布団、カプリコの上の部分、とか。座るとしずんでしまうソファ。煎った銀杏。美容室でいちばん高いトリートメント。真っ赤なペディキュア。 あとはやっぱり、とっておきの音楽と出会う瞬間だと私は思う。 高校生の時は音の大きなうたが好きだった。そのほうが堂々として見えるし、よく目立つ。学校で流しても盛り上がるし、楽しい気分になる気がした。 隣のクラスの仲のよい友達はバンドを組んでいて、よく地元のライブハウスに出ていたけれど、やっぱり共演していた同世代のバンドもみんな音が大きかった。そしてずっとキラキラしていた。...24Jan2018vol.1毎日ボーナスタイム