毎日ボーナスタイム vol.3<みうらかな>

 二月になる。「ドラゴンフルーツ」という斬新なタイトルのZINE に、「毎日ボーナスタイム」という何ともテキトーでふぬけた連載を持ちはじめて三ヶ月が経った(内容はいたって真面目である)。

 執筆の相談を受けたとき、小野さんからの指令が「ライブハウスについて書いてほしい」だったこともあり、前回まではライブハウスで働くことになったきっかけなど、基本的に自分にまつわるあれこれを書いてきた。けれど自己紹介が苦手で、しかも普段読書をまったくしない私にとって、" 己と向き合う" という底知れぬ気まずさとの戦いはかなり深刻なものであった。

 そうやって何度も吐きそうになりながら、夜中の自由が丘のベンチで書き上げた前作を読み返すと、やっぱりひどいな、と思うことも多々あるが、なぜか産んだ我が子のように愛おしい。この連載は、文章は、いわゆる私の脳みその断片なのだなと思った。

 さて、今回は私がライブハウスで働いている間に出会った素晴らしいミュージシャンについての話をしようと思う。

 名を折坂悠太という。

 とある日、友人にすすめられ動画サイトで彼が弾き語りをしている映像をみた。「きゅびずむ」というタイトルの歌。ガッシリとしっかりとどストライクに好みだった。初めて聞いたのにずっと昔から知っていたかのような、そんな懐かしくて特別な気分だった。

 その後、彼をはじめて自分の企画に誘ったのがたしか2015年の秋だったか。退職間近のスタッフとの最後の思い出作りに弾き語りのイベントを組み、好きなシンガー五人に歌ってもらった。あの時のことは今でも忘れない、手前味噌ながら本当に最高の企画だった。

 そんな素晴らしい出会いから早二年半くらい、これまで私は彼を何度も自分の企画に誘い、ありがたいことに何度も出演してくれた。いつも渾身の企画だった。というのも、ここまで売れてほしい、もっとみんなに知ってほしいと思えたシンガーは初めてだったのだ。微力ながら彼にとって「役に立つ何か」になればいいなと全力を尽くした(大袈裟な言い方だけどまじで超がんばった)。

 そしてついには昨年八月に私の店で初めてのワンマンライブを開催してくれることになった。このうれしさと言ったら計り知れない。と、同時にこの数年間でそこまでの力をつけていた折坂悠太の才能や努力に心底感激した。

 おかげさまでチケットは120枚完売し、大成功におさめた。あの時の多幸感といったら!この仕事を続けていてよかったと思えた瞬間だった。

 ここまで話したけれど、私は折坂悠太のマネージャーでもなんでもないし、ましては友達ともまた違う。一人の大人の男の一生が見たい、というと気持ちが悪いけれど、なんかそんなところである。

 二月には渋谷O-nest にて新しい作品のレコ発もあるということで、今後も活躍が大いに期待されるであろう。彼は確実にこれからの音楽業界に革命をもたらしてくれると、本気でそう思っている。

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 そろそろみんな「誰なんだそいつは」と動画サイトで名前を検索しかけているだろう。ということで最後に何曲かおすすめをお伝えしようと思う。

「馬市」

 「馬」という映画からインスピレーションを受けて書いたという本作。ライブでもギターアレンジを変えて演奏することが多く聞き応えのある一曲であり、折坂悠太を代表する歌といっても過言ではない。アルバム「たむけ」に収録されている。

「旋毛からつま先」

 軽快なテンポで折坂節が効いている影の代表曲。ギターの音色も歌詞もいい意味で彼らしく、ライブで聞くとさらに素晴らしい。かなりおすすめ。

「芍薬」

 これまで緩やかなテンポの楽曲が多かったが、過去いくつかの作品とは違い、かなりダイナミックでスケールの大きいインパクトのある一曲。最新アルバム「ざわめき」の始まりを飾る華々しい音が印象的。バンド編成に力を入れ始めた今ならではのアプローチだと思う。

 さらに、これはライブならではあるが、カバー曲もまた素晴らしく、とくに「安里屋ゆんた」「蘇州夜曲」は鳥肌ものなのでぜひ直接聞いてチェックしてもらいたい。

文:みうらかな


▼馬一

▼芍薬

DRAGON FRUIT

シンガーソングライター小野雄大が企画するZINE「DRAGON FRUIT」のホームページ。