なつたろうの思い出 vol.4<藤岡なつゆ>「サツキとメイ」 わたしには、七つ下の妹がいる。まさにサツキとメイくらいだろうか。大学進学でわたしも弟も家を出てしまったせいか、ほぼ一人っこのように育ち、また姉兄の友達とも一緒に過ごせるくらいに肝が座って、コミュニケーションにも長け、精神的にもずいぶんと追い越されたように思う。ずばっと言われて、たじたじな姉、なんてことも多々。今やどっちが姉で妹なのかわからないくらいだ。そんなわたしもちゃんと姉だったという話をしておこう。 妹はわたしが小学二年、弟が小学一年の冬に産まれた。どうしても同性のきょうだいがほしかったわたしは、仏壇と母のお腹に毎晩手を合わせて拝み倒した。ついに母から「赤ちゃんができたよ」と聞いたときは真っ先に仏壇に向かって「...09May2018vol.5なつたろうの思い出話
なつたろうの思い出 vol.3<藤岡なつゆ>「犬を飼いたい」 人生一度は、「猫派?犬派?」という二択に迫られることがあるが、なぜだろうか。個人的見解と統計によると世の中その割合は五:五くらいに感じるが、猫派の方が猫のみに固執しており、一方で、犬派の方はそう言いつつも、わりと猫も好きだし、むしろ動物全般が好きだったりする。ちなみに、私は犬派である。 私の実家は大変な田舎にあり、近所の人はみんな知っている顔だし、その家にどんな動物がいるかもたいてい知っていた。中でも犬は多かった。 坂の下のきみこさんちはジョン(洋犬との雑種で耳が垂れ、茶色いぶち模様)、かすみちゃんちはチコ(凶暴な雑種)、その隣のかーくんちは白い雑種のミッキー、そのまた隣のひーちゃんちは、シェットランド・シープドッ...21Mar2018vol.3なつたろうの思い出話
なつたろうの思い出 vol.2<藤岡なつゆ>「先生の年賀状」 私は手紙を書くのが好きだ。その前に文字を書くのが好きだ。私は模倣が上手いらしい。小学一年生で初めて字を習う時、ドリルに印刷されてる綺麗な字を見ながら、隣の空欄に真似をするように書いていく。勉強としては初めて字を書くはずなのに、なんだがとても上手くできた。先生もすごく褒めてくれた(小学一年の担任は板谷先生。確か当時二十七歳。肌が白くて目も髪も茶色くて綺麗な女性だった。今はもう名字が変わったかな。コンタクトユーザーだったからか、目がすぐ赤くなって、うさぎ先生と呼ばれていたこともあった。←そんなに流行らなかった。そして字がものすごく綺麗だった)。単純な私はいい気になって「自分は字が上手い」と思い込んで、小学校に止まらず今...21Feb2018vol.2なつたろうの思い出話
なつたろうの思い出 vol.1<藤岡なつゆ>「背中の記憶」 タイトル「背中の記憶」は、長島有里枝さんの短いエッセイである。長島さんが恵比寿駅から、リムアート(現在はPOST という店名となっている)という美術・写真作品集を専門に扱う本屋に向かうところから話は始まる。迷いながらもようやくたどり着いた店内で、アンドリュー・ワイエス(1917–2009)というアメリカの画家の展覧会カタログを手に取る。ワイエスの絵は実に写実的で髪の毛1本1本の動きから風の流れが見えるようなまさに写真のよう。こちらを向いているモデルの視点は遠く、どこか物悲しく、空気の温度が低いよう感じてしまうワイエスの絵に長島さんが引き込まれたように、私も同様だった。 私が初めてワイエスの絵に出会ったのは、2008 ...17Jan2018vol.1なつたろうの思い出話