イケず旅暮らし vol.4<村上大輔> 先日六本木から渋谷に帰った時のこと。日曜で夜遅かったこともありバスの本数も少なく、次のバスが来るまで20分ほど待たされることになった。一つ所にじっとしているのが苦手な性分なのでそれならと、ひとつ先のバス停まで歩くことにした。日曜の深夜とは言え週末の華やかさを失わない六本木の交差点から、世界各国の言葉を聞き流しつつ巨大な六本木ヒルズの足元を通り過ぎると次のバス停に着いた。 最近都心のバス停には「バスの到着まであと何分」といった表示がされるようになっている。5分ほどかけて歩いてきたがそれでもバスの到着まであと15分以上。道が混んでいるのもあるだろう。再びそれならと、さらに先のバス停へ歩き出す。ほどなくして着いたがやはりバスはあと15分...23May2018vol.5イケず旅暮らし
イケず旅暮らし vol.3<村上大輔>「あの団地で誘拐事件があったらしい」 皆様の中に団地で育った方はいるだろうか。もしいたとしたら、気分を害さないで読んでほしいと思う。偏見と、愛着に満ちた団地の話。 昔から僕は団地というものが怖かった。あの場所には外とは違った異様な雰囲気を感じてしまう。ずらりと立ち並んだコンクリートの塊のような建物はどれも無表情で、端っこに小さく書かれた番号でその区別がされている。入り口は小さく、そこから上っていく階段も暗い。一つ所に集められた郵便受けは鈍い色の金属で、なんとなくホコリっぽい。最近の団地事情に詳しいわけではないが、いまだにそんなイメージをぬぐえないでいる。 どことなく排他的なのも苦手である要因の一つである。敷地内には申し訳程度の砂場...28Mar2018vol.3イケず旅暮らし
イケず旅暮らし vol.2<村上大輔> 醤油かソースか、キノコかタケノコか…とかく人というものは争いの絶えない生き物である。 先日店のスタッフが「まかないをコロッケにします」と言い出した。「そんなものはやめろ!」、僕が反対したことによったまたひとつの争いが生まれてしまった。コロッケはご飯のおかずになるか否か、そんなことで三十路過ぎの男とアラサー女、さらには四十路を迎えた男までも巻き込んだ論争が始まってしまったのだった。争いは「誰もコロッケ丼は食べない(提案したスタッフすら)」という結論のもと、無事却下となり結末を迎えた。 コロッケは値段こそ安いが、いざ作るとなるとなかなか手間のかかるものである。玉ねぎをみじん切りにしてひき肉と共に炒め、じゃが芋をふかして潰して混ぜる、...14Feb2018vol.2イケず旅暮らし
イケず旅暮らし vol.1 <村上大輔>初対面の人や、あまり関わったことのない人に「色んな所に旅とかしてそうですよね」と言われることが少なくない。 ひげヅラ、濃い顔、くたびれた服、そんな第一印象が世の人に"旅人"のイメージを与えてしまうのだろうか。自分で言うのもなんだがサービス精神が旺盛な方なので、そんなことを言われるたびに「いやあ、全然行ってないです」と答えるのがとても忍びなく感じる。本当なら今まで行った国名をズラッと並べ(この場合東南アジアや南米などがベストだろう)、身にふりかかったハプニングや武勇伝を面白おかしく話してやるべきなのに。しかしそんなことができるはずもなく、ただの都会暮らしの不精者であることを相手に伝える度に心が痛むのだ。「雑誌を作りたいと思っ...17Dec2017vol.1イケず旅暮らし