上沼優二郎(FOOLA)の 感受性応答セヨ! vol.1<上沼優二郎>

 某月某日、俺は夜道を一人歩いていた。

 最寄り駅への終電を逃し、電車で行ける所まで行ってそこからは徒歩で帰る事にした。そこは中学校の頃に自転車でよく来ていたから帰り道も問題ない。ただ一時間半歩く、という事以外は。

 まずは駅の近くのコンビニで350ml の缶ビール二本を旅のお供にする。本当は500ml がいいのだけど歩きながら飲むと炭酸が抜けてしまってマズくなるから早く飲み切れるサイズに。二本じゃ一時間半の帰り道には当然足りないのだけど、先々のコンビニの位置も把握済みなのでそこで冷たいビールを新しく買うって作戦だ。深夜に音楽を聴きながら歩いているとまるで世界に自分と音楽だけになったようでとてもいい気分になるんだよなぁ。

 DJ オレ、そしてiPod に入ってるのは好きな曲ばかり。段々ゴキゲンになってきた俺はビールの補給所である次のコンビニで予定より多くビールを買った。
 音楽に浸りながらあれやこれや考えながら携帯を取り出すと予定よりだいぶ時間がかかっている事に気づいた。それもそのはず、職場でも散々飲んで「もうビール閉めますけど。」と、スタッフの冷やかかつ真っ当な申し出を受けて並々ビールが入ったグラスがあるにも関わらず別のカップでもう一杯もらっていた。ちっとも真っ直ぐ歩けず、時たま通る車が俺を避けるくらい車道に出たりで普段の半分くらいのペースだった。

 そう、アイアム泥酔。

とは言え仕事は昼過ぎからだし、午前中の予定もないので問題なし。
千鳥足の俺は電灯に集まる虫のようにまた次のコンビニに吸い寄せられた。
グッドミュージックを聴きながらビールをグビグビ、メールをポチポチ。

家まではまだまだかかる。
うーん、ラーメン食べたい、かも。

 そう思いだしたら無性にラーメンが食べたくなって進路を変更してギリギリラストオーダー前のラーメン屋にチェックイン。
なんで酔っ払うとラーメンが食べたくなるんだろうな。なんて思っているとネギトッピングのチャーシューメンが到着した。しかしだ。あんなに食べたかったラーメンなのにいざ目の前に現れたら全くもって食欲がない。

 なぜならコンビニでビールを買う度に枝豆、唐揚げ、ホットドッグなんかを買って平らげていたのだ。普段から小食のマイストマックには入りこむスペースは既になかったのだ。うーん、困った。なんなら今すぐ店を出たい。
 だけど丸々残すのもアレだしなんとか食べる事にした。食べ始めてしまえば不思議と食は進んだけど丼の淵にずらっと並んだチャーシューを恨んだ。いや、正確に言うとチャーシューメンを選んだ己を、だ。さながら登山かマラソンかの如く目の前のラーメンと自分との戦いになんとか打ち勝ち完食し、ビールを飲み干し挨拶をして店を出た。

 それから程なくして、自分の中からアツくこみ上げる衝動を感じた。そう、お察しの通りパンパンになったマイストマックからの緊急リリースの告知だ。
なんとか最寄りのコンビニまで耐え無事にドロップ。口をゆすぎ、手を洗い、情けない自分の顔に苦笑いを一つして気を取り直しワインを買い込んだ。

 家まではあと30分、ワインは半分。誰かと話がしたくなってきた。

そう言えばさっきまでメールをやりとりしていたあのコはまだ起きてるだろうか。まだ返信はしていない。この時間にいきなり電話をするのも如何なものだしなぁ、しかし電話がしたい。そもそもあのコの気持ちもまだよくわからん。うーむ。

「まだ起きてるかい?」

悩みながらも送信ボタンをポチり。話す事が特にあるわけじゃないが、なにか話がしたい。気持ちは隠したままくだらない話を。恋愛はどうなるのかわからないこのくらいの時期が1番楽しい。個人的には。気になるあのコの返事を待ちながら帰路を千鳥足で進んでいたら

「まだ起きてるよー」

と返事を受け電話をかけた。

「もしもし、遅くにゴメーン!終電なくしちゃって家まであと40分くらいあってさー。」

少し嘘をついてゴールである我家の前で長電話をしたのだった。

DRAGON FRUIT

シンガーソングライター小野雄大が企画するZINE「DRAGON FRUIT」のホームページ。