初対面の人や、あまり関わったことのない人に
「色んな所に旅とかしてそうですよね」と言われることが少なくない。
ひげヅラ、濃い顔、くたびれた服、
そんな第一印象が世の人に"旅人"のイメージを与えてしまうのだろうか。
自分で言うのもなんだがサービス精神が旺盛な方なので、
そんなことを言われるたびに「いやあ、全然行ってないです」
と答えるのがとても忍びなく感じる。
本当なら今まで行った国名をズラッと並べ(この場合東南アジアや南米などがベストだろう)、
身にふりかかったハプニングや武勇伝を面白おかしく話してやるべきなのに。
しかしそんなことができるはずもなく、
ただの都会暮らしの不精者であることを相手に伝える度に心が痛むのだ。
「雑誌を作りたいと思っていて、村上さん旅のコラム書いてくれない?月イチくらいで」
と編集長こと小野雄大君に最初に言われたのが今年の五月。
やはり多少の心の痛みを抱きつつも、持ち前のサービス精神が勝り軽く話を受けてしまった。
それにしても雄大君、誘い方がまるで業界人である。
去年の十一月、二年間住んだ国分寺を離れ明大前に引っ越しをした。
二階建て木造、築年数は年上。
六畳半の和室は悪く言えばボロ、良く言えば"侘び寂び"のきいた過ごしやすい部屋だ。
もともと家にあまりいない生活で、寝られさえすれば満足な僕は、
家賃の安さが決め手となり即座に入居を決めた。
引っ越してから以前の生活と大きく変わったところがひとつあった。
この家には洗濯機が置けないのだ。
一週間か二週間に一度、コインランドリーに行く。
天気が悪ければ乾燥機までかけ、晴れていれば部屋で干す。
一見不便なようだが、待ち時間に読む置きっぱなしの古い雑誌や、
洗剤の匂いが混じった温かさが癖になる。
何より家がひとつシンプルになったようでとても気が楽だった。
男ひとりが暮らすだけの家に洗濯なんて機能はいらないのかもしれない。
この安アパートを旅先の宿だとしよう。
洗濯機こそないが、充分快適で必要以上のものは揃っている。
そもそも宿の部屋に洗濯機が置いてあったことなどないのだが。
言ってしまえばこの家は素泊まり一泊二万弱、チェックアウト自由の宿である。
僕は楽しくハードルを下げる旅のような暮らしに身を投じた。
毎日いろいろあるけどさ
いちいち面白がれたらな
日本中を歌いまわるリトルキヨシ君の名曲「ローリングデイズ」の一節だ。
旅の上なら、多少の面倒や不自由も楽しめるだろう。
文:村上大輔
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