なぜだか目覚めが良い日がある。平日仕事の日には二度寝しまくるのに、ぐったり感もなく素晴らしく完璧な朝というものが年に数回はある( この文章の書き方は先月参加した劇団キコの脚本家小栗さんの書く本のセリフをオマージュしたものだ)。
この日もそうだった。「七時半に三宿集合」と告げられて、修学旅行みたいな感覚もあった。世田谷区三宿というのは芸能人がよく集まる「大人の遊び場」のひとつときく。自転車で十五分って距離は旅支度で歩くには辛い。完璧な朝と書いたが、そんなことはなく、目覚めが良いだけで寝坊はした。百円ローソンで朝食その他諸々を買いこんでタクシーに乗り込む。三宿交差点の松屋前にステップワゴンが停まっていて、そこにみんな待っていた。到着は七時半丁度だったので遅刻ではない。
「おはようございます。よろしくお願いします」とあいさつして出発進行。池尻から高速に乗り気分は上々。さて。メンバーは僕を含めてミュージシャン三組と引率の先生。初めてのソロでの遠征が始まった。
総勢五人の道中、みんな車の運転ができるので、六時間を五人で割ってみんな体力温存しつつ、交代休憩を挟みつつ順調に進んだ。サービスエリアで朝を感じ、富士山で興奮し、くだらない話に興じて笑った。無理なく一緒にいれる人たちというのは良い。
鴨川が見えてきて、修学旅行生みたいな気分でみんなで感嘆の声をあげた。京都に着いた時は十三時半くらい、入り時間まで時間があるが会場のsomenokyoto へ行くとお店は空いていた。とても綺麗で広い会場で、テーブル・椅子がありゆったりみれる会場だった。適当に時間を過ごさせてもらい、リハーサルを始めた。音がとても良くて、店長の奥村さん自慢のスピーカーだという。聞いた話だと、「ムッチャ高かった」とのこと。自分のリハーサル後、ホテルへのチェックインへ向かう。四条から歩いて十五分くらい、磔磔というライブハウスの近くのカプセルホテル。カプセルホテルの割にしっかり個室でベッドがあって綺麗なところだった。そのあとsomenokyoto へ戻りがてらけんごさんと昼食をとる。よくわからないまま歩いていると商店街が出てきて、人混みを抜けて新京極のあたりにある知らないラーメン屋へ。大して美味しくもなく割愛する。
この時、一瞬だけスコールみたいに雨が降った。会場に戻る途中津田さんから電話があって、「CD 欲しい人がきてるで」とのことで、やや! と思い急いで戻ると、近所の楽器屋に勤めるお兄さんが。うたたねをチェックしてくれていて、仕事の休憩中トイレでSNS をみていたら近所にくることを知り休憩時間を利用して足を運んでくれたという。お兄さんのやっているバンドのCD もいただいて、一緒に写真を撮った。こんなことがあるのは嬉しかったな。ライブが始まって、ちょろちょろと人が入り始めた。自分の演奏のことばかり考えていた。いまだにセットリストには悩む。初めての遠征だから、わかりやすくて気に入ってもらいやすいものがいいかなとか、いろいろ考えた。ライブが始まると三〇分なんてあっという間で、でもそのあっという間の三〇分のために僕らが何時間とお金をかける意味はわかってもらえると思うんだ。
ライブが終わると打ち上げ。一度ホテルに荷物を置きに戻った。新店長に任命されたという平柿さんがお店を予約してくれているという。そのお店で飲み食いをして、二時頃に「明日もあるからほどほどに」ということで解散(今回の目標は「飛ばしすぎない」)。鯖の燻製と豊富なビールが美味しいお店だった。やたらダウナーな店員さんがいて、それもよかった。ホテルに戻ってシャワーを浴びたら一瞬で眠りについた。翌朝一〇時がチェックアウトの時間だったわけだが、目が覚めたのは一〇時十五分だった。アウト。急いで部屋を出るとヘラヘラした勇一郎君が「延長料金かかるらしいよ」とのことで朝からバッドな気分になったが、受付の綺麗なお姉さんが「大丈夫ですよ」と気を利かしてくれて京都のことを大好きになった。チェックアウトしてからトイレに行くていで着替えたりアメニティを使ってヒゲを剃ったり顔を洗ったりしてめちゃくちゃ甘えさせてもらったので星五つあげます。はいリピート確定。
さて大阪へ移動。時間があるので、万博公園に行こうということになった。めちゃくちゃテンション上がった。太陽の塔のてっぺんがちょこんと覗けてからみんなで騒いで、それを目の前にした時ものすごい感動があった。岡本太郎はすごいな、かっこいいな。みんなでそのパビリオンの歴史を話しながら公園内をうろつく。めちゃんこ高い上に対してうまくないカツカレーを食べたり、「人間はたまに放電しないといけない」ということで裸足で芝生を歩いたり、その後で足湯に入ったりした。帰り際にみんなでグッズを購入してソフトクリームを食べて満足して車に乗り込んだ。車内では、「織田信長がいかにエキセントリックだったか」という話に花を咲かせているうちにすぐに目的地の道頓堀についた。
この日は自分だけが別の会場で、津田さんと雄一郎くんとしみけんさんは歌う魚で僕はSlowBird。まずアメリカ村、三角公園で甲賀流のたこ焼きを食べた。最初に大阪にライブにきたのはうたたねでLOVE SOFA に出た時で、その時もみんなでここでたこ焼きを食べた。時間ていうのはあっという間だなあと思いながら、会場の違う三人に「ではまた後ほど」としばしの別れを告げ、けんごさんと二人ですぐ近くのSlow Bird へ。会場は雑居ビルの六階にあり、そこかしこにびっしりとステッカーやペイントがされていた。この感じ、ストリートアート感があってとても好きだ。大体、線路からはみ出した精神というのは一番純粋で素敵なものなんだ。
Slow Bird というお店は、Enterというお店が前身としてあって、正式には五月一日からのオープンとのことだった。店長の岸谷さん曰く「前の店辞めて独立してすぐ『新しい店始めました! てのはどうかなと思って』とのことで謎の空白の一ヶ月間を用意したとのこと。その謎の空白期間に自分は演奏させてもらったことになる。雰囲気もとても素敵なところで、マンションの一室みたいで板張り、壁は白いコンクリート、カウンターとステージ、二〇席くらいの椅子と数台のテーブル。とても広いベランダがあり、東京は渋谷のセブンスフロアみたいな雰囲気。ベランダにはバーベキューセットがあって、ずっとワクワクしてたんだけど、それが使われることはついぞなかった。無念。
音も飛び抜けて良くて、弾き語りのポテンシャルといいエッセンスを全て出し切れるような場所だった。「新しいの買って、今日初めて使うんですよ」とPAのかなえさんは言う。近所にあったらホームにするね。だってベランダから謎のビルの自由の女神が見えるんだぜ。どの角度から見たってこの店は最高だろ。 友人のカメラマンのともきも駆けつけてくれて、写真を撮ってくれた。彼の写真はとてもいい。モノクロで、色がないのに多彩な感じ。色も匂いも音も伝わってくる感じがとても好きだ。いつもありがとう。
そして謎の予約「オオタさん」と言う存在がいて、「誰だろう、うたたね聞いてくれた人かなあ」と会うのを楽しみにしていたら、ドアが開いて、なんか見たことある金髪だなと思っていたらまさかの遠藤健史が現れた!「大阪帰ってきてん。そんで雄大がライブやるて見たから店調べたろおもてたら閃いたんや。オオタですゆうてお店に予約したわ」とのことでサプライズ登場だった。欲しかった通りのリアクションが取れたらしく「きた意味あったわあ。てかあれやな、うつくしいもの激名曲やな」そういってずっとベランダで酒飲んでタバコ吸ってともきと話してた。いい二人のメガネを友達にもったな。久しぶりに共演した阿南さんとCD 交換して、「またやろな!」と言ってもらった。
岸谷さんに「めっちゃライブよかったです。また誘わせてもらっていいですか?」と言ってもらって、ぜひお願いしますと答えた。
「会わせたいミュージシャンいっぱいいますねん。また楽しみが増えましたわ」
僕はお酒を飲んだり長居することができなかった。何故ならば帰るために運転があったし、会場の違うみんなと合流しなければならなかったから。泣く泣くお先に失礼しますと後ろ髪を引っ張られながらまたくることを誓った。次は必ず飲みまくって追い出されるまでいてやる。
歌う魚に向かって、合流して、車に戻った。津田さんオススメのラーメン屋に寄り、ラーメン、チャーハン、餃子のフルセットを食した。「キムチ食い放題やで。しかもめちゃうまいんですわ」とのことでキムチも最高。梅が乗った天然塩ラーメンも油ギッシュなチャーハンも最高だった。ZINE にはやはりご当地グルメ情報が必要だと思った。
帰り道は計画的にみんなで仮眠をとりながら行きと同じく交代で運転。連休初日の混雑を心配したけどなんのその、極めてスムーズに帰路に着いた。
一人、また一人を車を降りていった。みんなの顔は疲れていたけど充足感で溢れていた。また約束もたくさんできたし、食べたいものも行きたいところも増えた。はやく帰りたいのに、「またね」と笑う感じ、いいよね。
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